バックナンバー
日本予防医学協会HP

夏から秋へと季節の移り変わる9月は、昼と夜の寒暖差が大きくなり、私たちの身体やこころにさまざまな変化をもたらします。
これから訪れる季節を健やかに過ごせるよう、季節の移り変わりに合わせて、こころや身体のケアを行ってみませんか?

さて今月の【健康づくりかわら版】をお届けします!

 

こころと身体を整える秋のメンタルヘルス

 

9月10日は『世界自殺予防デー』です。
日本の自殺者数はG7各国の中で第1位。その中で40~50代の自殺の要因としては『健康問題』『経済・生活問題』『勤務問題』が多い傾向にあります。また、年々メンタルヘルスの不調を抱える労働者が増加していることがわかりました。

そこで今回は『メンタルヘルスケア』に関するお話です。

両手で包むハート
 

ストレスチェックの導入

 

労働者自身のストレスへの気づきを促すこと、職場環境の改善による働きやすい職場づくりを行うことにより、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐ目的として、ストレスチェックが義務化されました(平成27年)。

○ストレスチェック実施状況(令和5年)
 50人未満の事業所:34.6%
 50人以上の事業所:81.7%
 全体:41.4%

これまで50人未満の事業所では努力義務であったため、半数以上の事業所がストレスチェックを実施していませんでした。
しかし、2025年5月公布の改正労働安全衛生法により、従業員50人未満の事業所も義務化されることが決定しました(現在は50人以上の事業所のみ義務)。
この改正法は3年以内に施行、遅くとも2028年5月までには義務化される見込みです。

虫眼鏡とハート
 

職場におけるメンタルヘルスの実態

 

厚生労働省が実施した労働安全衛生調査「25年調査」によると、職業生活等において強い不安、ストレス等を感じる労働者は5割を超えており、メンタルヘルス上の理由により連続1か月以上休業又は退職した労働者がいる事業所は令和4年に13.3%という結果でした。
このような状況を背景に、精神障害等の労災補償件数は平成14年から年々増加しており、令和4年の認定件数は710件、うち自殺者は67件。この件数は統計史上もっとも高い件数です。

書類

○精神障害の出来事別労災支給決定件数(令和4年)
※( )自殺者数

  • パワーハラスメント・・・147(12)件
  • 悲惨な事故や災害の体験・目撃・・・89(1)件
  • 仕事内容・仕事量の(大きな)変化・・・78(16)件
  • 同僚等から暴行又はいじめ・嫌がらせ・・・73(0)件
  • セクシュアルハラスメント・・・66(0)件

○職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査結果

  • メンタル不調者がいる事業所:6割弱
  • 3年前よりメンタル不調者が増加したと感じる事業所:3割強

  • メンタルヘルスで 1 カ月以上の休職または退職した労働者がいた事業所でのメンタルヘルスの取り組み状況:
    「取り組んでいる」事業所・・・6割強
    「取り組んでいない」事業所・・・3割強

※専門のスタッフがいない、取り組み方わからない、該当する労働者がいないなどの理由でメンタルヘルス対策に取り組んでいない事業所もありました。

 

メンタルヘルスケア対策の取り組み内容

 

企業の取り組みとしては、労働者からの相談対応窓口の整備がもっとも高く、その他、ストレスチェックの実施、衛生委員会の設置・調査、職場復帰における支援などがあり、職場環境の改善を行った事業所では、セルフケアへの関心が高まったことがわかりました。

メンタルヘルス不調の原因は個人の性格や考え方だけでなく職場環境が要因となっている場合があります。個人の問題と捉えず、個人での取組と併せて職場でもメンタルヘルス対策に取り組むことが重要です。

なお、厚生労働省より、取り組み事例集が取りまとめられています。労働者が安心して働ける職場環境をつくるためのヒントとしてぜひお役立てください。

事業場におけるメンタルヘルス対策の取組事例集(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000615709.pdf

 

セルフケアでこころを健康に

 

ストレスは誰にでもありますが、過剰に溜めすぎてしまうとこころや身体の調子を崩してしまいます。メンタルヘルス不調を未然に防ぐために、セルフケアも推奨されています。
そこで、次に日常生活の中でのセルフケアをご紹介します。

◆一息つく時間をつくる
日常生活の中で、リラックスできる時間をもつことが大切です。
ゆっくりと腹式呼吸をする、ぼんやりと窓の外を眺める、ゆったりお風呂に入る、軽く体をストレッチする、好きな音楽を聴くなど、気軽にできることから初めてみるのもおすすめです。
お酒を飲んで辛さを紛らわせようとすると、睡眠の質が低下し、こころが不安定になることがあるので要注意です。

胸に手を当てる男性

◆体を動かす
身体活動は気分転換やストレス解消につながり、メンタルヘルスの改善に効果があると考えられています。
運動による刺激が神経伝達物質の発現とその作用を促すとされており、とりわけセロトニンとβ‐エンドルフィンはメンタルヘルスに関する神経伝達物質として知られており、運動よる刺激によってセロトニンとβ‐エンドルフィン(神経伝達物質)がその作用を促します。

  • セロトニン…別名「幸せホルモン」と呼ばれ、過剰な興奮や衝動・不安を軽減させリラックスさせる働きがある
  • β‐エンドルフィン…不安を和らげる働きを持つ

β‐エンドルフィンは運動強度の増加に伴って上昇するとされていますが、中等度の有酸素運動でも濃度は上昇するいわれています。つまり運動を行うことにより、2つの神経伝達物質が作用し結果的に身体活動はストレス対策につながります。

歩いている女性

◆呼吸法を取り入れる
呼吸を意識的に整えることはこころのコントロールに役立ちます。
厚生労働省より呼吸法のわかりやすい動画が紹介されていますので、ぜひ参考になさってくださいね。

  • 呼吸法
    https://www.youtube.com/watch?v=ZlAdEp-N_08&list=PLMG33RKISnWigxIFleot75lqbfpl-XW9C&index=24

  • 筋弛緩法
    https://www.youtube.com/watch?v=MG4DF1Nr3d8&list=PLMG33RKISnWigxIFleot75lqbfpl-XW9C&index=25
手を挙げている女性とハート

なお、セルフケアを実施したり身近な人へ相談しても、辛い状態が長く続く場合は体からのSOSであることを認識し、専門家の助けを借りてみることも大切です。

働く人の「こころの耳相談」(厚生労働省)
https://kokoro.mhlw.go.jp/

 

最後に・・・

 

メンタルヘルス不調を未然に防ぐために、社会全体で労働者の健康を守る取り組みが求められています。
身近な人の行動の変化や異変を感じたら、周囲から声をかけてあげることも大切な取り組みの1つです。
まずは、身近な人の体調を意識することから始めてみませんか?
そして、自分自身でも少し疲れてきたと感じる際は、意識して休息を取り、こころのリフレッシュを図 っていきましょう。【K】

 

※今回の記事は次の資料を参考・引用して作成しました。

・河合 克則(2022) 身体活動の効果と心理健康科学 『心身健康科学』18巻2号 P92‐95
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhas/18/2/18_92/_pdf
 【最終閲覧2025年8月13日】

・厚生労働省 こころもメンテしよう 
 https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/self/index.html
 【最終閲覧2025年8月13日】

・厚生労働省 ストレスチェック制度の実施状況(令和5年)
 https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001431177.pdf 
 【最終閲覧2025年8月13日】

・厚生労働省 職場におけるメンタルヘルス対策の現状等
 https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001236814.pdf
 【最終閲覧2025年8月13日】

・厚生労働省 こころの耳 独立行政法人労働政策研究・研修機構職場におけるメンタルヘルス対策の調査結果
 https://www.jil.go.jp/press/documents/20110623.pdf
 【最終閲覧2025年8月13日】

・厚生労働省 こころの耳 中央労働災害防止協会
 https://kokoro.mhlw.go.jp/brochure/worker/files/H22_haken_kokoro_hint.pdf
 【最終閲覧2025年8月14日】

 
 

PDF版はこちら【2025年9月】健康づくりかわら版をダウンロード

 

一般財団法人日本予防医学協会
HP https://www.jpm1960.org/
本メールマガジンに掲載された記事を許可なく転載することを禁じます。
Copyright (c) The Association for Preventive Medicine of Japan.
All rights reserved.