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寒気も少しずつ緩み始めましたが、いかがお過ごしでしょうか。
今年度も残り2ヶ月となり、季節は春に向かっています。皆さんにも素晴らしい春が訪れますように。

 

さて今月の【健康づくりかわら版】をお届けします!

 

みんなで一緒に、レッツ職場体操

 

朝、通勤中に工事現場の前を通ると、作業員の皆さんがラジオ体操をしている風景をみかけます。また近年では、健康経営の追い風に乗って独自の職場体操を行っている事業場もあるようです。

このように、現在では様々な職場で様々な体操が取り入れられていると思います。本記事では、職場の中で就業中に行っている簡単な運動や体操を総称して職場体操と呼びたいと思います。

これら職場体操の歴史を皆さんはご存じでしょうか?また、職場体操にはどのような効果があるのか知っていますか?

そこで今回は『意外と古い職場体操の歴史とその効果』に関するお話です。

 

職場体操のはじまり

 

職場体操の歴史は意外と古く、1930年代にさかのぼります。当時は昭和恐慌を脱して産業が回復し始めたころで、多くの商社がアジア諸国との繊維貿易に力を入れていたころです。

時を同じくして、紡績業で成功していた大原孫三郎氏により、倉敷労働科学研究所(現、大原記念労働科学研究所)が岡山県に設立されました。その研究所に所長として就任したのが、生理学者の暉峻義等(てるおかぎとう)氏です。

暉峻らは、紡績工場などの機械産業で働く女性の勤労者について、同年代の他の産業(主に漁業)で働く女性勤労者と比較して身長や体重などが少なく、機械的産業労働が身体的な発育に影響を与えることを主張していました。

さらに、発育へ影響を及ぼす可能性のある作業負担の軽減に対して組織的に取り組まなければならないことも主張しており、現在の労働衛生マネジメントに通じるものがあるといえます。そして、この作業負担の軽減対策の一環として暉峻らが取り入れた対策が「補償体操」、すなわち現代における職場体操だったのです。

 

職場体操の効果

 

職場で実施する体操の効果については、これまでに多くの学術的な検証が重ねられています。取り入れている体操や実施している時間についてはそれぞれ異なってはいますが、得られた効果としては、疲れの軽減や、運動機能の向上、からだの痛みの軽減などが数多く報告されています。つまり、職場体操は就業時間内であれば、どの時間帯に実施しても一定の効果が見込めるという捉え方ができるといえます。

また、近年では、就業中に行う短時間の運動はワークエンゲージメントの向上やプレゼンティーズムの改善にも効果があるということが報告されていますから、文字通り『心身共に』効果があるといえるでしょう。


 

 

職場体操に組み込める簡単な運動の種類

 

運動にはいくつか種類があることをご存じでしょうか?例えば、ウォーキングは有酸素運動、スクワットなどの筋力トレーニングはレジスタンス運動というように、いくつかの種類に分けられています。また、それぞれの運動を行うことで期待できる効果も異なりますので、どのような運動が職場体操に組み込めるのか、またどのような効果を得たいのかによって体操の組み合わせを考えることが肝要です。

 

就業時間中に短時間で行う職場体操に組み込み可能であると考えられる運動は、概ね以下の3種類です。

レジスタンス運動
筋力アップを目的として、筋肉が短時間で疲労する高強度の運動を行う。スクワットや腕立て伏せなど自分の体重(自重)で行う方法だけでなく、ダンベルなどの器具を使って行う方法がある。

動的ストレッチ
膝の屈伸などに代表されるように、関節を繰り返し動かして筋肉を伸ばしたり縮めたりすることで、筋肉のパフォーマンスを発揮しやすくなる。関節が動く範囲で繰り返し動かす方法や、動きの反動を使って伸ばす方法などがある。

静的ストレッチ
主にからだを柔らかくするために、関節が動くギリギリの範囲で動きを止めて、筋肉をゆっくりと伸ばす方法。

例えば、中高年の方の作業中の転倒防止を目的とした場合には、筋力を向上させるためのレジスタンス運動と、作業中の動きのパフォーマンスを向上させるための動的ストレッチを組み合わせた職場体操を始業前に実施することが効果的であると考えることができるでしょう。

また、これらの運動以外にも二重課題(デュアルタスク)で行う運動や認知症予防のための運動等もあります。
職場体操を取り入れる目的に応じて、様々な組み合わせを試してみてはいかがでしょうか?

 

 

最後に・・・

 

従来の職場体操は、作業の負荷によって体にかかる負担を軽減するためであったり、あるいはケガの予防のために行う意味合いが強かったように思われます。しかしながら、現在はパソコンを使った仕事が増え、就業時間中は座りっぱなし、という方も多いのではないでしょうか。近年では、座りっぱなしの仕事は、糖尿病や心疾患の発生リスクを高めることが世界中から報告されています。従って、オフィスワーカーの方にとっても簡単な職場体操を仕事の合間に行うことは重要であるといえます。毎日、職場体操を行って心身をリフレッシュし、日々の健康を保ちましょう。

 
 

※今回の記事は次の資料を参考・引用して作成しました。
・暉峻義等、他. 若年商工労働者及び徒弟に強制的体育の必要なる理由、
 並に労働科学研究所案「補償体操」について. 労働科学 1930; 7(2): 201-220.
・谷直道、他.職場体操が運動機能に与えた影響~職場体操導入前後の運動機能テストと質問紙調査から~.
 産業衛生学雑誌2018; 60(4): 85-93.

 

PDF版はこちら 【2023年2月】健康づくりかわら版.pdfをダウンロード

 

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