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肌に触れる風もだんだんと冷たくなり、晩秋の気配を感じられる季節になりました。暦の上では「立冬」、いよいよ冬の始まりですね。

さて今月の【健康づくりかわら版】をお届けします!

 

もしも盲腸になったら?~急性腹症とそのサイン~

 

「お腹が痛い」そんな経験は誰にでもありますが、ただの腹痛では済まないこともあります。実は、お腹の痛みには命に関わる病気が隠れていることがあり、緊急で手術が必要になるものもあります。医療の現場ではこれを「急性腹症(きゅうせいふくしょう)」と呼びます。
今回は、身近で急性腹症にもなり得る病気の一つ、「急性虫垂炎(盲腸)」に関するお話です。

おなかを押える女性
 

急性虫垂炎とは?

 

急性虫垂炎とは、お腹の右下のあたりで、盲腸の先端にある「虫垂(ちゅうすい)」という小さな器官に炎症がおこる病気です。
一般的には「盲腸」という名前で知られています。若い方に多いイメージがあるかと思いますが、実際には全年齢層で起こり得ます。発症すると強い腹痛や吐き気、発熱などが現れ、放っておくと虫垂が破れて炎症がお腹の中に広がり、命に関わる状態になることもあります。

小腸と大腸
 

こんな症状には要注意!

 

虫垂炎を含む急性腹症には、次のような症状がみられることがあります。このような体の変化に気が付いた際には、早めの受診をお勧めします。

・みぞおち、おへその周辺から、お腹の右下へ移動する痛み
・嘔気、嘔吐
・食欲不振
・微熱~高熱
・歩くと響くような痛み

特に、お腹の右下あたりを軽く押した際により痛みが強くなる場合は、虫垂炎の可能性が高くなります。

 

「とりあえず様子をみる」が命取りに?

 

市販の鎮痛薬などで一時的に痛みが和らいでも、原因そのものが改善されていなければ病気は進行していきます。虫垂炎が悪化して虫垂が破裂したりすると、炎症がお腹の中に広がり「腹膜炎」という病態に発展します。そうなると長期の入院が必要になったり、より体に負担のかかる手術が必要になったりする可能性があります。お腹にいつもと違う違和感を感じたら、「とりあえず様子を見る」ではなく「とりあえず病院で診てもらう」方が、結果的に安全で負担も少なく済む選択でしょう。

 

治療法

 

虫垂炎の治療は大きく分けて、抗菌薬で治療する「保存的加療」と、手術で虫垂を切除する「外科的加療」の2つに分けられます。
どちらの治療法にもメリットとデメリットがあり、どちらを選ぶかはしっかり主治医と相談の上で決定しましょう。

●保存的加療

≪メリット≫

  • 侵襲が少ない(体を切らなくて良い)
  • 創部のケアが不要

≪デメリット≫

  • 再発する可能性がある(10%~40%)
  • 保存的加療が効かなかった場合、より体に負担のかかる手術が必要になる可能性がある
薬を手に持つ女性

●外科的加療

≪メリット≫

  • 根治的治療が可能(再発する可能性が低い)
  • 摘出した虫垂を病理検査に出すことで、確定診断が得られる(虫垂に別の病気が隠れていないかを確認できる)

≪デメリット≫

  • 手術に伴う合併症(出血、感染、腸閉塞等)のリスクがある
ベッドで説明を聞く女性
 

似たような症状の病気にも注意

 

急性虫垂炎と似たような症状を示す病気も少なくありません。
例えば、

  • 胆石発作、急性胆のう炎(お腹の右上)
  • 尿管結石(背中や下腹に放散する痛み)
  • 婦人科疾患(卵巣捻転など)
  • 胃潰瘍、十二指腸潰瘍

これらも急性腹症になり得る病気の一部であり、個人的な判断では見分けがつかないことがほとんどです。痛みが強くなってくる、動けない、熱もでているといった場合は、なるべく早めに病院で検査を受けましょう。
お腹が痛いくらいで病院に行っていいのかな?と迷う方は少なくありませんが、悪化して命に関わる状態になる前に受診することが最も重要な自分の健康を守る方法です。特に働き盛りの年代の方は、忙しいから休めないと我慢して仕事を続けがちですが、悪化すれば復職も遅れ、結果的には周囲に迷惑をかけることにもつながってしまいます。

 

最後に・・・

 

急性腹症は誰にでも起こり得る病態です。中でも急性虫垂炎は、早期に対応できれば効果的な治療ができ、手術を選択するにしても合併症のリスクを低くすることができます。
気になる症状があれば、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。お腹の違和感は、体からの大切なサインかもしれません。

外科医K.K

喜ぶ小腸と大腸
 

※今回の記事は次の資料を参考・引用して作成しました。
・急性虫垂炎 https://hokuto.app/erManual/EgDLNmYmmh6yhktmiYbV 【最終閲覧 : 2025年6月24日】
・樫山哲也 東京ER多摩総合マニュアル 中外医学社

 
 

PDF版はこちら【2025年11月】健康づくりかわら版をダウンロード

 

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