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日本予防医学協会HP

新緑の美しい季節となりました。
あたたかな木漏れ日と新鮮な空気を存分に味わいたいものですね。
さて今月の【健康づくりかわら版】をお届けします!

 

「煙が出ないから安心」は本当?
~加熱式・電子たばこの現状と健康影響を考える~   

 

5月31日は世界禁煙デーです。
この日は、たばこがもたらす健康影響について改めて見つめ直し禁煙の大切さを広く伝える国際的な記念日。最近では「煙の出ないたばこ」として登場した新型たばこ(加熱式・電子)が普及していますが、これらの製品は本当に「安全」と言えるのでしょうか。そこで今回は『新型たばこ(加熱式・電子)』に関するお話しです。

5月31日世界禁煙デー
 

新型たばこの種類と違い

 

●加熱式たばこ
たばこ葉を加熱し、発生するエアロゾル(蒸気)を吸引する製品です。火を使わず煙が出ないことから「害が少ない」と考えられがちですが、ニコチンを含み、依存性は紙巻たばこと同様に強いとされています。

加熱式たばこ

●電子たばこ
液体リキッドを加熱して蒸気を発生される製品でたばこ葉を使用しない点が特徴です。国内では医薬品医療機器等法(薬機法)によりニコチンを含む製品の販売は原則禁止されていますが、個人輸入品にはニコチン入りも多く存在します。

電子たばこ

これらの新型たばこは、過去に紙巻たばこを利用していた人には「軽く」感じられることも多いようで、本数が増えたり、無自覚に深く吸い込むなどの代償性喫煙行動を伴うことも少なくありません。

 

増加する新型たばこの使用者

 

「令和5年 国民健康・栄養調査」によると、現在習慣的に喫煙している人の割合は15.7%で、その内訳は男性25.6%、女性6.9%です。

そのうち、喫煙者が使用しているたばこの種類をみると、
・紙巻たばこを吸っている人:男性69.7%、女性63.2%
・加熱式たばこを吸っている人:男性38.5%、女性42.3%

加熱式たばこの日本国内での歴史は10年程度。この数年のうちに加熱式たばこの利用者が急増したことは容易に想像できます。
特に若年層や働き世代を中心に広まってきています。

こうした動きから、喫煙のスタイルが「紙巻たばこ中心」から「新型たばこ中心」へと変化しているといえるでしょう。

棒グラフ
 

なぜ切り替える?使用者の意識傾向

 

保健指導等を通して喫煙状況についてヒアリングを行うと、新型たばこを選ぶ理由として、次のような傾向がありました。
・「煙やにおいが少ない」
・「周囲への影響が小さい」
・「紙巻たばこよりも健康被害が少ない」

実際に新型たばこの広告等を確認するとクリーンなイメージの表現がみられますが、同時に「周りの人の健康への悪影響が否定できません。」と紙巻たばこ同様に免責表現が記されていることも事実です。

受動喫煙
 

「紙巻よりマシ」は誤解のもと?

 

新型たばこは「紙巻たばこよりマシ」と思われがちですが、実際には『害の種類や量が変わっただけ』というのが専門家の共通した見解です。
WHO(世界保健機関)も、加熱式たばこについて「安全性は確立しておらず、規制が必要」と警告しており、長期的な安全性はまだ科学的に十分証明されていません。

なお、多くの化学物質を含む新型たばこでは紙巻たばこにはないリスクが潜むと考えられています。
加熱式たばこでは、「グリシドール・ピリジン・ジメチルなど」の化学物質の発生量が紙巻たばこより増加しているという報告があります。これらの物質は呼吸器や循環器への影響を引き起こすリスクがあり、長期的影響についても不明な点が多いのが実情です。
電子たばこでは、リキッドの成分(プロピレングリコール、グリセリン、香料など)は加熱によってホルムアルデヒドなどの有害物質に変化する可能性があり、肺機能への悪影響やアレルギー反応の誘発が報告されています。
米国では2019年に、電子たばこ使用に関連した肺障害(EVALI)が多数報告され、大きな問題となりました。

 

世界禁煙デーをきっかけに”本当の禁煙”へ

 

世界禁煙デーは、「なぜ吸うのか、そしてどうやめるか」を考える日。新型たばこを含むすべてのたばこ製品は、ニコチン依存や健康影響の観点から、禁煙対象であることに変わりありません。
厚生労働省も、禁煙外来や禁煙補助薬の活用を推奨しており、専門家のサポートによって禁煙成功率は2~3倍にあがるとされています。

 

最後に・・・

 

禁煙は「がまん」ではなく「選択」。
今はさまざまな制度が整っており、自分にあった方法で"卒煙"を目指せます。
まずは知ることから、そして自分や大切な人たちのために、一歩を踏み出してみませんか?

タバコと肺
 

※今回の記事は次の資料を参考・引用して作成しました。
・厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査」
 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf
・加熱式タバコ製品に関する包括的報告書
 http://www.jstc.or.jp/uploads/uploads/files/information/HTPtabaccoCOP9wayaku.pdf
・WHO「Heated tobacco products」一般社団法人 日本禁煙学会理事 松崎道幸・訳
 http://www.jstc.or.jp/uploads/uploads/files/information/WHO2019%20HTP.pdf

 
 

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