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日本予防医学協会HP

あけまして おめでとうございます。
本年は巳年!脱皮をすることから"変化と革新""復活と再生"
新しいことが始まる年といわれているそうです。どんな新しいことが待っているか、ワクワクしますね。さて今月の【健康づくりかわら版】をお届けします!

 

ニューノーマル時代の口腔ケアとは?
~“New Normal” for Oral Care~

 

1歳半から2歳半の乳幼児期は「感染の窓」が開くといわれ、むし歯菌に感染し定着を防ぐために、子どもと大人は食器の共有をしないことが推奨され広く伝わっていました。
歯科では定説でありましたので、歯科保健指導にてその説を伝え、そして、それをまじめに実践していた方は多いのではないでしょうか。

しかし、その定説が翻ったのをみなさんご存知でしょうか?

2023年9月、日本口腔衛生学会は以下の見解を示しました。
「食器の共有をしないことで、う蝕予防できるということの科学的根拠は必ずしも強いものではない」「親の唾液に接触することが子どものアレルギーを予防する可能性を示す研究が報告された」ことから、食器を共有する生後5ケ月以前に親の唾液には、すでに暴露しているので気にしすぎなくてよいとのことでした。[1]

 

むし歯と歯周病菌はどこからやってくる?

 

①むし歯菌 母親(親)⇒ 子
生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中には、むし歯菌や歯周病菌は存在しません。しかし、次第に主に母親由来の口腔細菌が定着していることがわかっています。家族間で菌を共有し乳幼児期の口腔にむし歯菌も常在菌として定着していきます。[2]

両親と赤ちゃん

②歯周病菌 パートナー? 親?⇒ 子
数ある歯周病菌の中でも3つの歯周病菌の複合体をレッドコンプレックスと呼び、重度の歯周病に関与しているようです。
この中でも最強最悪の菌が“Pg菌”です。Pg菌は18歳以降に感染することから「パートナーからの感染」といわれています。

走る男女

③歯周病菌  犬や猫 ⇔ 飼い主
犬と飼い主も相互に菌を共有しているという報告があります。犬の顔の形状や小型犬の小さな顔の場合は、歯根と目や脳までの距離が近く顎の骨も小さいことから、顔が腫れたり、目から膿が出たりと、犬の歯周病は思いもよらぬ重篤な事態になることがあるので注意が必要です。
因みに犬の歯石除去は全身麻酔になります。

ペットと家族
 

感染したらOUT? マイクロバイアルシフト

 

唾液を介して菌は伝播・共有していきますが、口腔常在菌のバランスがとれていれば、むし歯や歯周病は発症しません。

お口を取り巻く環境のバランスが崩れて、ある種の口腔細菌が病原性を高めることを"マイクロバイアルシフト"といいます。
高病原性にシフトした状態のバイオフィルム[注1]が、むし歯や歯周病を発症させ進行していきます。

特に、歯周病菌は血液の鉄とタンパクが大好物です。歯磨きの時に出血する方は、歯周ポケットの内側にできた潰瘍から出血しています。歯肉出血は栄養が増え、歯周病菌が一気に増殖し"マイクロバイアルシフト"がおきます。

喫煙も歯周病菌が優位になる要因になります。

[注1]
お口の中のバイオフィルムは歯垢(プラーク)のことです。
複数の細菌がコミュニティをつくり、身を守るために増殖し粘着性の膜を形成していきます。排水溝や川底の石のヌルヌルとしたものがバイオフィルムです。

歯に付くバイオフィルム
 

感染からの脱出! 防御の方法

 

むし歯や歯周病にならないためには、厄介者のバイオフィルムの量を減らしたり除去する必要があります。粘着性なので、うがいや強い水流を当てるくらいでは簡単には落とせません。
しっかりと歯ブラシ等の毛先で物理的に擦って膜をはがす必要があります。

●セルフケア
歯ブラシによる歯磨きだけではきれいに磨いたと思っていても実は6割程度しか落とせていません。
歯間部は、デンタルフロスか歯間ブラシなどの歯間清掃用具を使って磨き残しがないようにしましょう。
歯磨剤は、高濃度フッ素[注2]をぜひ使ってください。
歯を修復し耐酸性の強い歯にし、静菌作用があります。予防歯科の効果で最も高いエビデンスがあるのはフッ素の利用です。

デンタルフロス

●プロフェッショナルケア
セルフケアで落としきれないバイオフィルムは、歯科医院にて専門的な機械を使い歯周ポケット内までクリーニングする定期的なメインテナンスを受けましょう。

歯科医

[注2]
6歳以上は、フッ素濃度1500ppmの歯磨剤の使用を推奨
6歳未満は、500ppmから1000ppmの歯磨剤の使用を推奨 [3]

 

最後に・・・

 

お口の菌の共有はゼロにはできませんが、気にかけすぎる必要もありません。
但し家族等からの菌の伝播は明らかです。口の中を当たり前に清潔に保つことは、自分のみならず家族や周囲の方々への配慮となるのではないでしょうか。
新年の良いスタートを爽やかなお口でお迎えいただき、ご家族みなさまの口福を祈念いたします。

家族の集合写真
 

※今回の記事は次の資料を参考・引用して作成しました。

 

[1] 日本口腔衛生学会 乳幼児期における親と食器共有について
  https://www.kokuhoken.or.jp/jsdh/statement/file/statement_20230901.pdf
[2] PRESS RELEASE(2022/01/25)
 九州大学 口腔予防医学分野 教授 山下喜久
 母子間の口腔細菌共有を高精度に検証
[3] 日本小児歯科学会「フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法について」
 https://www.jspd.or.jp/recommendation/article20/
・麻布大学 島津德人
 動物の歯周病は人間からうつる?? - 麻布出る杭プログラム
 https://www.azabuderukui.info/project/periodontal-disease-in-animals/
・“歯周病”からヒトと動物の共生を考える ー418(良い歯)プロジェクト 2024ー
 https://www.azabuderukui.info/wp-content/uploads/2023/05/pj2024_12.pdf
・大阪大学 口腔分子免疫制御学講座予防歯科学 教授 天野敦雄
 昭和学士会誌 第79号 第5号(600-608頁,2019)
 DrとDH,一緒に学ぼう:歯周病とう蝕の最新バイオロジー

 
 

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