バックナンバー
日本予防医学協会HP

2024年も残すところあと1か月となりました。
みなさまにとってはどのような1年でしたでしょうか。
寒さがしみますが、見上げると心地の良い空が広がっていますね。

さて今月の【健康づくりかわら版】をお届けします!

 

冬は便秘になりやすい!?

 

突然ですが、毎日の「便」を意識していますか?
一定のリズムでしっかり出ていますか?また、それはどんな色で、どんな形ですか?

寒さによる腸の冷えやストレス、水分不足、年末年始の業務量増によるストレス、宴会料理での野菜不足などで、冬は便秘になる方が増加します。

そこで今回は『便秘』に関するお話です。

便座に座るクマ
 

便秘の定義

 

そもそも便秘の定義はご存知でしょうか?
便通異常症診療ガイドライン2023(慢性便秘症)を基に勉強していきましょう。

便秘とは、「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責(どせき)、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」と定義されています。

簡単に言うと、「便が硬くて出にくい、排便回数が少ない、出すときに過度にいきむ、出てもすっきりしない状態」といったところでしょうか。
ちなみに理想の便は、熟したバナナくらいの形と柔らかさです。

慢性便秘症は、便秘が慢性的に続くことによって学業、就労、睡眠といった日常生活に影響を及ぼす症状をきたし、検査、食事・生活指導または薬物療法が必要な病態のことを指します。

排便頻度や便の硬さだけでなく、排便時のいきみや残便感などの症状も含めて診断するのが特徴です。

 

便秘の疫学

 

慢性便秘症の有病率は、国や地域、用いる診断基準によりばらつきはありますが、おおよそ10~15%とみられています。
若いときは女性に多いですが、高齢になると男女ともに増加し、性差がなくなるという傾向があります。
一般的な発症リスクとしては、性別(女性)、腹部手術歴、身体活動の低下、特定の基礎疾患(精神疾患、神経疾患など)、加齢、一部の薬剤があります。

大腸
 

便秘の原因・病態

 

原因によって一次性と二次性に分類されます。
一次性便秘症には、便排出機能の低下や直腸肛門感覚の変化、小腸や大腸に形態変化や運動障害を認めるもの、便秘型の過敏性腸症候群などがあります。
二次性便秘症は、何らかの疾患により引き起こされるものを指し、以下のようなものが挙げられます。

器質性:大腸がん、潰瘍性大腸炎、クローン病など
薬剤性:抗コリン薬、三環系抗うつ薬、抗精神病薬など
症候性:糖尿病、甲状腺機能低下症、パーキンソン病など

症状の観点からは、便が出ない「排便回数減少型」と便が出せない「排便困難型」に分類されます。

 

便秘の影響

 

便秘が慢性的に続くことで、直腸に潰瘍ができたり、腸閉塞や腸管に穴が開いたりすることもあり、ときに命に関わる状態になり得ます。それだけでなく、冠動脈性心疾患(心筋梗塞や狭心症)や脳卒中、神経性疾患などの全身疾患の発症リスクを高める可能性があることも知られています。
また、身体的・精神的な健康関連quality of life(QOL)を低下させるだけでなく、労働生産性をも低下させることが報告されています。

<便の危険なサイン>
血便や、排便習慣が急激に変化した場合(便が細くなる、便秘や下痢を繰り返す)、体重減少を伴う場合などは、大腸がんや潰瘍性大腸炎、クローン病などの病気が隠れている可能性があり、早急に大腸カメラを受けるのが望ましいです。
無症状であっても、50歳以上の方で1度も大腸カメラを受けたことがない方は、個人的には受けることをおすすめしています。

腹痛の男性
 

便秘の治療

 

慢性便秘症の治療は主に生活習慣の改善と薬物療法です。
薬物療法については専門的になるため、ここでは割愛しますが、「刺激性下剤」は繰り返し使用していると効果が出にくくなる(耐性が生じる)ものがあるので注意してください。

1 自律神経を整える
まずは規則正しい生活を心がけましょう。腸の動きは自律神経によって調節されています。生活リズムを整えることで、自律神経が整うため、排便を規則正しく行うことにつながります。
また、便意を我慢せず、便意を感じた時にトイレに行くようにすることも大切です。排便を我慢することが多いと、便秘症が悪化しやすくなります。

脳と大腸

2 ストレスをためない
先程も述べたように、自律神経の働きによって腸の動きは変化します。過度なストレスは自律神経の乱れを招き、便秘につながるのです。

温泉に入る男性

3 適度な運動を行う
適度な運動を行うことで腸の動きが促されます。
排便時に腹筋や骨盤の筋肉を使うため、これらを鍛えるのも効果
的ですし、有酸素運動が症状改善に効果があるとする報告もあり
ます。

歩く女性

4 食習慣、食事内容に気をつける
1日3食を規則正しく摂取しましょう。特に朝食の摂取は体内リズムを整え、胃や腸を刺激し、排便反射を促しやすくします。

食物繊維を適量取ることで改善する場合もあります。食物繊維は水に溶ける水溶性食物繊維と、水に溶けにくい不溶性食物繊維に分けられます。大腸に便が滞るタイプでは不溶性食物繊維を取りすぎると便秘が悪化する恐れがあるため、注意が必要です。

・水溶性食物繊維:善玉菌を増やす、便を柔らかくする
 果物や繊維の柔らかい野菜(にんじんやキャベツなど)、海藻類など
・不溶性食物繊維:便の量を増やして腸管を刺激し、

 腸の運動を活発化させる
 根菜類やきのこ類、繊維のかたい野菜(たけのこなど)、豆類など

他には、ヨーグルトや納豆などの発酵食品はおすすめですし、プルーンやキウイフルーツも有効なようです。
しかし、これを食べれば便秘が必ずよくなるというものはありません。
ご自身にあったものを選び、適量摂取するようにしましょう。

体内時計を指さす男性
 

最後に・・・

 

「たかが便秘」と症状を軽くみていると、大腸の中で便がさらに硬くなり、症状が余計ひどくなるなど悪循環を引き起こします。

便秘の予防や解消には、日々の食事や生活習慣の改善、適切な対処法を取り入れることが大切です。そして、便秘が慢性化した場合は医師の診察を検討し、適切な治療を受けましょう。

では、よいお年を。

医師 H.S

手を挙げる男女

※2024年3月の健康づくりかわら版には「腸内細菌」ついても掲載されていますので、ぜひご覧ください。

「年度末!腸内細菌も決算!」
https://www.jpm1960.org/kawara/10/202402-Intestinal-bacteria-contributing-to-health.html

 

※今回の記事は次の資料を参考・引用して作成しました。

 

・便通異常症診療ガイドライン2023(慢性便秘症)
・便秘と食習慣 | e-ヘルスネット(厚生労働省) 福村智絵
 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-010.html
・NHK webサイトきょうの健康 たかが便秘?「生活改善と薬」

 
 

PDF版はこちら【2024年12月】健康づくりかわら版をダウンロード

 

一般財団法人日本予防医学協会
HP https://www.jpm1960.org/
本メールマガジンに掲載された記事を許可なく転載することを禁じます。
Copyright (c) The Association for Preventive Medicine of Japan.
All rights reserved.