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あなたの肝臓フォアグラってる?

朝晩は涼しく、布団から出るのが億劫になってきましたね。
ご飯もおいしく、脂肪をため込みやすい時期ですので注意して過ごしましょう。

さて今月の【健康づくりかわら版】をお届けします!

 

あなたの肝臓、フォアグラってる?

 

突然ですが、問題です。世界3大珍味といえば何でしょうか?

正解は、「トリュフ」、「キャビア」、「フォアグラ」です。

その中でも今回は「フォアグラ」を取り上げます。フォアグラとはアヒルやガチョウの肥大化させた肝臓のことです。つまり肝臓を太らせているのです。

今、この「太った肝臓」が現代人の健康問題になっています。近年、肝臓に脂肪が沈着した「脂肪肝」を指摘される健診受診者が多く見受けられます。放っておくと、肝硬変や肝癌といった命に関わる病気へと進展することもあります。

おいしい食事やお酒で太ったあなたの肝臓と向き合ってみませんか。

そこで今回は『脂肪肝』に関するお話です。

肝臓
 

肝臓の役割

 

「肝心要」という言葉があるように、肝臓は人間の体にとって重要な働きをする臓器です。
肝臓は、腹部臓器の中でも最大でその重量は約1500gです。右上腹部の横隔膜の下に位置しています。
主に3つの役割をもっています。

1.栄養の代謝

消化管で吸収された糖類、タンパク質、脂質をはじめとする栄養素を分解、合成、貯蔵します。
糖類は腸内でブドウ糖へ分解され、ブドウ糖をグリコーゲンとして合成し肝臓で蓄えます。血中のグルコースが不足したときにはグリコーゲンを分解し、血中に放出することで血糖値の調整を行います。
そのほか、アミノ酸からアルブミン(血液中のタンパク質)を合成したり、脂肪酸から中性脂肪やコレステロールなどを合成したりするなどの働きがあります。

2.有害物質の解毒

アンモニアを尿素に変えたり、アルコールをアセトアルデヒドや酪酸に変えたりして、体外に排出する働きがあります。

3.胆汁の合成・分泌

脂質の乳化とタンパク質を分解しやすくする「胆汁」という消化液を合成し、分泌します。胆汁は胆嚢に蓄えられ、食事をとったタイミングで胆嚢が収縮し、十二指腸へ流れ出ます。

 

脂肪肝の病態

 

肝臓の細胞へ脂肪が5%以上沈着すると脂肪肝と定義されます。
また、アルコール性肝障害、ウイルス性肝疾患、薬物性肝障害などによる2次性脂肪肝を除いたものを非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼びます。
中でも、肝細胞障害および炎症を伴うものを非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と呼んでいます。
NASHはNAFLDのうち10~20%を占め、肝硬変や肝癌の発生母地(最初にがんが発生する場所や細胞)となり得るので注意が必要です。

NAFLD/NASHは患者数が増加しており、日本におけるNAFLDの有病率は、成人で約30%とされ、患者数は約2300万人と推定されています。NASHの患者数は約430万人と推定されています。

肝臓の変化
 

脂肪肝の原因

 

脂肪肝の原因はいくつかありますが、最も一般的なのは過食や運動不足によるものです。
先にも述べましたが、糖類はブドウ糖へ、脂質は脂肪酸へ分解されます。摂りすぎたブドウ糖や脂肪酸が中性脂肪として肝臓に蓄えられるのです。
また、アルコールの飲みすぎでも肝臓に中性脂肪がたまります。
反対に、極端な食事制限などの無理なダイエットが引き起こす低栄養性の脂肪肝も存在します。

 

肝硬変の恐ろしさ

 

肝障害が進行し、肝臓が線維化したものを肝硬変と呼びます。
原因として、以前はC型肝炎ウイルスによるものが半数以上を占めていましたが、近年はその割合が減少し続け、アルコール性および非アルコール性脂肪肝による肝硬変が増加傾向です。
最近の報告では、アルコール性28.8%、C型肝炎ウイルス27.1%、NASH12.7%、B型肝炎ウイルス10.9%と言われています。
肝硬変が進行すると、胃・食道静脈瘤、脾腫、低アルブミン血症、腹水、黄疸、肝性脳症といったさまざまな症状が現れ、やがてコントロールができず、命を落とすこともあります。
もちろん肝癌の発生母地にもなります。

目を回す肝臓
 

どうやったら脂肪肝とわかるの?

 

脂肪肝かどうかは腹部超音波検査で判断できますが、NASHかどうかは実際に肝生検を行い、組織検査を実施しないとわかりません。
ただし、肝生検は侵襲的な検査なので、他の慢性肝疾患との鑑別が必要な場合や肝臓の線維化が疑われる場合は行うことが推奨されています。
血液検査でAST値、ALT値の高値、ALT/AST比が1以下、ヒアルロン酸の高値といった所見や糖尿病、脂質異常症、高血圧などが合併していれば、NASHが積極的に疑われます。

 

脂肪肝には治療薬がない

 

残念ながら、脂肪肝を劇的に改善させる特効薬はありません。
基本的には生活習慣が影響して起きるため、食事療法と運動療法が主体になります。
単純性脂肪肝のうちであれば肝機能の低下を招く恐れは少ないので、早めに生活習慣の見直しに着手しましょう。7%以上の体重減少が達成できれば、肝臓の脂肪沈着が改善し、10%以上になると肝臓の線維化も改善すると言われています。
それから、飲酒習慣のある人は適量飲酒を心がけ、休肝日を設けることも重要です。

 

最後に・・・

 

肝臓は「沈黙の臓器」とも言われます。あなたの生活習慣が知らない間に肝臓にダメージを与えているかもしれません。

年末年始はイベントも多く、暴飲暴食しがちです。肝臓を労り、ぜひ健康的に楽しみましょう。

医師 H.S

医師から説明を受けている様子
 
 

※今回の記事は次の資料を参考にして作成しました。
・『NAFLD/NASH診療ガイドライン』日本肝臓学会,2020. 
・『令和4年度 肝がん白書』一般社団法人 日本肝臓学会,2022.

  https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/liver_cancer_2022.pdf
・泉並木著『よくわかる最新医学 肝臓病 ウイルス性肝炎・肝臓がん・脂肪肝・肝硬変』主婦の友社,2018. 
・『日経メディカルオンライン シリーズ◎NAFLD/NASH診療最前線』(最終閲覧日2023.10.27)

 
 

PDF版はこちら【2023年12月】健康づくりかわら版をダウンロード

 

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