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日本予防医学協会HP

失って初めて気づくこと・・・。
切ないものやかけがえのないものなど様々ありますね。
みなさん、何か思い当たることはありますか?
さて、今月の【健康づくりかわら版】をお届けします!

 

噛む噛む エブリデー

 

歯が生えそろっていなかった乳幼児期のことを「あの頃は歯がなくて難儀だったなぁ」と記憶している方は極めて稀だと思いますので、歯を失った状態をリアルに実感することはむずかしいですね。

普通に噛めていたら、有難みを常々感じることは少ないでしょうが、お口の健康も失ってから気づくのでは遅すぎます。
そこで今回は『噛む力・お口の健康』に関するお話です。

 

はるか六〇年前から、今もずっと

 

わたしたち日本予防医学協会では、創立まもない1963年から「歯科口腔健診」を開始しています。働く人の健康に、口腔保健は不可欠だと考えたことは月日を超えて今も繋がっています。


2000年には口腔保健指導「お口のチェック」を開始しました。
ロゴマークは三人の歯科衛生士をモデルにしていて、当時20代、30代、40代だった職員は、それぞれ40代、50代、60代となり今も頑張っています。


2011年から2012年は東日本大震災の支援事業として、宮城県南三陸町で戸別訪問を行い、歯科衛生士による聴き取り及び口腔内観察、カウンセリングを行いました。


わたしたちは一貫して「噛む力・お口の健康」に取り組み続けています。

 

食事をかんで食べるときの状態は?

 

2018年に法改正があり、特定健診・保健指導の第三期見直しとして、問診項目に「食事をかんで食べるときの状態はどれにあてはまりますか」が追加されました。
もうすでに何回かお答えですね。回答選択肢は次の3つです。

  1. 何でもかんで食べることができる
  2. 歯や歯ぐき、かみあわせなど気になる部分があり、かみにくいことがある
  3. ほとんどかめない

定期健診の中に「噛む力・お口の健康」が加わったことは画期的なことです。わたしたちは以前から歯科と医科の両方の健診を実施していましたので、活用しないわけにはいきません。弊会の健康情報分析課の職員が中心となり外部有識者のお力添えをいただき研究論文を2編発表しました。

 

まずはじめに、特定健診の問診項目「食事をかんで…」と歯科健診の結果に関連性があるのか調べました※1。
「2. かみにくいことがある」や「3. ほとんどかめない」と回答した人は「1. 何でもかんで食べることができる」と回答した人と比較して口腔状態もよくない可能性があり統計的な関連性が確認できました。
噛みにくいや噛めないと答えた方は適切な歯科健診の実施や保健指導へと繋げることが重要です。
この記事をお読みのあなたは、何とお答えでしょうか?

 

次に、「2. かみにくいことがある」や「3. ほとんどかめない」と回答した人は「1. 何でもかんで食べることができる」と回答した人と比較して肩こりや腰痛の違いを調べました※2。
こちらも統計的に有意な差があり、特定健診の問診項目「食事をかんで…」は肩こりや腰痛の発生を予測できる可能性を示しています。肩こりや腰痛は加齢やストレスだけでなく、噛みにくさも要チェック! ということですね。

 

歯科衛生士に聞いた!噛む力がもたらす健康力

 

一般的には、噛む力が低下すると、野菜や果物の摂取量が減少し脂質の摂取量が増加します。そのことにより、心血管疾患やがん発症リスクをあげると考えられています。

 

また、これまで発表されている他機関の研究論文を見ていくと、次のような結果も報告されています。

 

  • 噛む力が高い人に比べて、低い人は2.6倍死亡するリスクが高く5.1倍心血管病による死亡リスクが高い。※3

  • 歯を失うこと、つまり噛めなくなることが、脳への神経伝達物質を減らして認知機能の低下につながる。※4

元気でいるためには兎に角『噛む噛む エブリデー』です。

 

毎年の健康診断でお口の健康も

 

「何でもかんで食べることができる」かどうか、何気ない問診項目の1つですが、ご自身やご家族、または支援の手を差し伸べるべき人たちに、失う前に気づいてほしいことの一つです。

「噛む噛む エブリデー オールマイライフ」を目指して、「噛む力・お口の健康」の保持増進に微力ながら邁進して参ります。

【引用文献】

※1 谷直道ら「特定健康診査に用いられる主観的な咀嚼状態に関する質問項目と男性勤労者における口腔状態の関連性」産業衛生学雑誌,2022年2月17日受理
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sangyoeisei/advpub/0/advpub_2021-027-B/_pdf/-char/ja

 

※2 TANI Naomichi et al.,"Does difficulty in chewing induce subjective musculoskeletal symptoms? A case-control study",BMJ open,2022年2月27日受理
https://bmjopen.bmj.com/content/bmjopen/12/3/e053360.full.pdf

 

※3 Ansai T, Takata Y, Soh I, Akifusa S, Sogame A, Shimada N, Yoshida A, Hamasaki T, Awano S, Fukuhara M, Takehara T: Relationship between chewing ability and 4-year mortality in a cohort of 80-year-old Japanese people. Oral Dis. 13:214-219, 2007.

 

※4 Goto T et al. Neurodegeneration of trigeminal mesencephalic neurons by the tooth loss triggers the rogression of Alzheimer’s disease in 3×Tg-AD model mice
Journal of Alzheimer's Disease DOI: 10.3233/JAD-200257

 

PDF版はこちら 【2022年6月】健康づくりかわら版.pdfをダウンロード

 

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