バックナンバー
日本予防医学協会HP

10月は、夏の疲れが少しずつ表面化し、これまで気づかなかった体の変化にも目を向けたい時期です。日々の忙しさの中では見過ごしがちな小さな変化も、健康診断をきっかけに早期発見につながることがあります。

さて今月の【健康づくりかわら版】をお届けします!

 

胃がん予防のために知っておきたい

「ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)」

 

胃がんは、日本において依然として重要な癌の一つです。近年、胃がんの罹患率・死亡率は以前と比較して低下傾向にありますが、現在でも多くの方が胃がんと診断されています。その背景には、食生活や喫煙などの生活習慣に加えて、Helicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ、以下ピロリ菌)感染が胃がん発症の重要な要因として挙げられます。

そこで今回は『ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)』に関するお話です。

ピロリ菌
 

ピロリ菌とは?

 

ピロリ菌は、胃の粘膜に感染して生息する細菌です。また、菌種名ピロリは胃の出口を指す言葉で、この細菌が発見された部位の名前をとって命名されています。
通常、胃内は強い酸性環境に保たれているため、多くの細菌は生存できません。しかしピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を産生し、胃内の尿素からアンモニアを生成することで周囲の酸を中和し、胃内に定着します。
感染経路に関して、多くは幼少期(4歳頃まで)に感染すると考えられています。衛生環境の改善に伴い、若年世代での感染率が低下している一方、過去に感染した世代(50歳代以上)では比較的高い感染率が残っています。

 

重要なことは、ピロリ菌に感染していても、必ずしも胃の症状があるとは限らないということです。「胃痛がないからピロリ菌はいない」、「胃もたれがないから胃は健康だろう」とは言い切れません。感染していても無症状のまま慢性的な胃炎が進行することがあります。

ピロリ菌と胃
 

ピロリ菌感染から胃がんの発現まで

 

ピロリ菌に感染すると、胃粘膜には慢性的な炎症が生じます。感染が長期間続くことで胃粘膜が徐々に薄くなる「萎縮性胃炎」が進行し、更に腸上皮化生と呼ばれる粘膜変化を伴うことがあります。このような胃粘膜の変化は、胃がん発生の重要な背景因子となります。
全てのピロリ菌感染者が胃がんになるわけではありませんが、ピロリ菌感染は胃がん発生の最大のリスク因子の一つと考えられています。また、胃がんの発生にはピロリ菌だけでなく、喫煙、塩分摂取などの生活習慣や遺伝的要因など、複数の因子が関与しています。
したがって胃がん予防を考える際には、ピロリ菌対策と生活習慣の改善を組み合わせていくことが重要です。

元気のない胃
 

ピロリ菌はどうやって調べる?

 

ピロリ菌の感染を調べるには、いくつかの検査方法があります。
それぞれに特徴があり、状況に応じて適切な検査方法が選択されます。

【代表的な検査方法】

〇尿素呼気試験

診断だけでなく除菌治療後の判定にも広く用いられる検査

〇便中抗原検査

現在の感染状態を評価する方法として有用

〇血清抗体検査

簡便であり健康診断などでも利用されることがある。ただし、血清抗体は除菌後もしばらく陽性となる(数カ月~数年)ため、血清抗体陽性=現在も必ず感染している、とは限らない。
健康診断で血清抗体陽性を指摘された場合には、医療機関で追加検査を受け、現在の感染状況を確認する必要がある。

〇内視鏡検査

ピロリ菌感染の有無だけでなく、胃粘膜萎縮や腸上皮化生、潰瘍、腫瘍性病変など、胃全体の状態を直接評価できるという利点がある

 

ピロリ菌が見つかったら「除菌」

 

ピロリ菌感染が確認された場合、一般的には除菌治療を行います。
除菌治療では、胃酸分泌を抑制する薬と複数の抗菌薬を組み合わせて1週間服用します。治療薬の組み合わせは、抗菌薬の耐性状況などを考慮して選択します。
ここで重要なことは、処方された薬を決められた期間、正しく服用することです。「症状がなくなったから」、「薬を服用するのが面倒だから」と途中で中断すると、除菌に失敗する可能性があります。また、除菌治療後には、実際にピロリ菌が除菌されたかを確認する「除菌判定」が必ず必要です。
除菌治療は「薬を飲み終われば終了」ではありません。「診断→除菌治療→除菌判定」までを一つの治療として考えることが重要です。

カプセル剤
 

「除菌したから、もう胃がんの心配はない」は間違い

 

ピロリ菌の除菌治療により、胃がん発生リスクを低下させることが期待されます。しかし、ここで注意したいことは、除菌後も胃がんリスクがゼロになるわけではないという点です。
特に、長期間ピロリ菌に感染していた方では、除菌する時点ですでに萎縮性胃炎や腸上皮化生などの胃粘膜変化が存在している場合があります。そのため、「ピロリ菌を除菌したから胃がん検診はもう必要ない」という考え方は適切ではありません。むしろ、ピロリ菌感染歴がある方、特に高度な胃粘膜萎縮を認める方では、除菌後も胃がんの早期発見を目的とした内視鏡検査などによる経過観察が重要になります。

 

最後に・・・

 

ピロリ菌は、決して特別な人だけが気にするものではありません。
これまで検査を受けたことがない方は、自分が感染しているのか、一度除菌したことがあるのか、胃粘膜萎縮があるのか、などまずは自分の状態を知ることから始めてみてください。
そして、健康診断で要精密検査や要受診と判定された場合には、症状がなくても放置せず、医療機関を受診するようにしましょう。
ピロリ菌を知ること=胃がんを知ること、胃の状態を知ること=将来の健康を守ること、です。
健康診断は、病気の有無を判定するだけのものではありません。
自分自身の健康リスクを知り、これからの健康管理につなげるための機会です。この機会に一度、ご自身のピロリ菌感染症や胃の状態を振り返ってみてはいかがでしょうか?【医師Y】

元気な胃
 

※今回の記事は次の資料を参考・引用して作成しました。

・H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2024
・大塚製薬HP https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/(最終閲覧日:2026年9月3日)

 
 

PDF版はこちら【2026年10月】健康づくりかわら版をダウンロード

 

一般財団法人日本予防医学協会
HP https://www.jpm1960.org/
本メールマガジンに掲載された記事を許可なく転載することを禁じます。
Copyright (c) The Association for Preventive Medicine of Japan.
All rights reserved.